もう何十回と見ている作品。レナ・ホーンの歌の歌詞もわかってるし、だいたいどんな写真がそれに合わせてコラージュされるかもわかってるんだけど、それでも見るたびにパワーをもらう。この映画にはアルバレス映画の真髄が凝縮していると思う。写真の操り方は、この映画でだいたい完成している。アニメーション的に、静止した写真を組み合わせて動きを引き出したり、ぐぐっとズームして一枚の写真のなかでフレーミングを重ねて物語をつくりだしてしまう。たぶんアルバレスはこの映画で新しい映像とか素材はなにも使ってない。既存の他人の素材を自らのアジテーションに転化させるその大胆さがすごいし、それでもそこに映っている人々の声を捻じ曲げたり搾取したりはしないのがいい。米国の権力者たちは徹底して対象化して弄ぶけど、弾圧される黒人たちの声(写真だから聞こえない)はレナ・ホーンの歌声にかき消されることがなく、彼女とともに共鳴してさらに増幅する。
怒りや憎しみ、希望といったいろんな感情がごちゃまぜになったインパクトを、この映画からはもろに受ける。それはアルバレスの感情であり、レナ・ホーンの感情であり、名も知れない黒人たちの感情であり、また彼らに連帯する無数の者たちの感情である。そうやってこの映画の情動はどんどん伝染して、大きくなる。歌詞には「この歌のメッセージはとことん明快」とあって、確かにそうなんだけど、それでもこの映画がいつも新鮮なのは、無数の人々の情動が不定形のままでうずまいているからだと思う。プロパガンダ的な固定された情報としての明快さではなくて、時代や国を飛び越えて変化していく感情の源がある。黒人たちの闘いは今もぜんぜん終わらないし、彼らと同じ気持ちを抱いた人たちの闘いが続くかぎり、この映画はこれからもずっと新しいままだろう。いつだって彼らといっしょに「NOW!」と叫んで闘いをはじめられる。